東日本大地震を受けた福島第一原発での事態について、知人から質問を受けて簡単な解説を書きましたので、編集したものをこちらに転載しておきます。
現時点で東京では健康に懸念が全くないことを適切に理解し、冷静な行動を心がけてください。
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(※以下の記述は、物理学の知識には基づいているものの、原子力や災害対策の専門家のものではありませんので、正確な情報はマスメディア等が報じる日本政府や専門家のものを優先して下さい。また、実際の行動は自身の責任のもとで行って下さい。)
(記 3/15 17:00)
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(目次)
■ 1.放射能の単位と深刻度
■ 2.被害を及ぼす仕組みと遠隔地での減衰
■ 3.東京での被害の恐れと対処
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■ 1.放射能の単位と深刻度
マイクロシーベルト(μSV)という単位で整理して書くと、
(目安)
・国際線片道搭乗1回で浴びる量の例: 200μSV
・レントゲン検査1回で浴びる量の例: 600μSV
・普段誰もが自然から浴びる量の例: 約2,000μSV/年 (=0.2μSV/時)
・身体に影響が心配され始める量: 約200,000μSV
・医療処置が必要なレベル: 約1,000,000μSV
・致死量: 約7,000,000μSV
(今回の報道)
・3/15現在、原発で検出された最大レベル: 400,000μSV/時 (※原発すぐそば)
・3/15現在、東京で検出された最大レベル: 0.8μSV/時
3/15現在、原発すぐそばからは退避すべきレベルですが、数十km以上離れた遠隔地では健康への影響は全くありません。
(参考)
SV(シーベルト)は、人体への放射能被曝の度合いを表す単位です。
単位間の関係は以下の通り:
・1SV(シーベルト)=1,000mSV(ミリシーベルト)=1,000,000μSV(マイクロシーベルト)
・1mSV(ミリシーベルト)=1,000μSV(マイクロシーベルト)
■ 2.被害を及ぼす仕組みと遠隔地への影響
原発からの放射能被害は大きく2種類が考えられます:
・[A] 原発から直接放射される放射線による被害
・[B] 放射線を放射する物質が原発から放出されることによる被害
[A]は、1999年JCO事故のケースなどが該当します。
今回については、原発で働いている人は被害を受けますが、遠隔地まで被害が及ぶことはありません。
直接的な放射線の強さは「距離の2乗分の1」に厳密に比例して減衰するので、
例えば
・原発から200mの場所: 《1,000,000μSV》 の場合
・原発から200km(1000倍)離れた東京に直接届いた場合: 《1μSV》 (1000×1000=100万分の1)
になります。
これに加えて、放射線は直進するので、実際には途中にある山・建物など遮蔽物によって全て遮断されます。
[B]については、放射線を放射する物質自体が飛んでくるので、風向き次第で遠隔地でも影響が出る可能性が生じます。
[A]のケースと違って、この場合は物質の濃度自体は拡散して低くなるので、直接放射線を浴びることによる心配はあまりありません。
心配することになるのは、呼吸で吸い込むなどで体内に取り込んでしまう場合で、その場合には体内から持続的に放射線を浴びてしまうので、微量であっても影響が生じ得ることになります。
原発からこれらの物質が空気中に放出された場合、遠隔地に届く濃度は、風向きや天候に大きく影響されるものの、[A]と同じく「距離の2乗分の1」程度にほぼ比例して減少すると考えられます。
(例えば、原発周辺100m四方に最初に分布した物質が風で飛来し、東京周辺100km四方に分布した場合、濃度は100万分の1に薄まります。加えて雨が降らなければさらに上下方向にも薄まります)
■ 3.東京での被害の恐れと対処
可能性は低いですが、今後、東京に被害を及ぼすケースとして考えられる可能性は
《安全基準以上の濃度の放射性物質が東京に飛来する》
場合です。
現在のところ(3/15現在)、これに至る確率は、全く個人的な直観では
《原発で今後事態がそこまで悪化する確率=数%?》
× 《風に乗って東京を高濃度で直撃する確率=数%?》 = 0.1%程度?
と思われます。
(つまり99.9%?の確率で回避)
もしこれに至った場合、東京で予想される影響は
・屋内退避が必要になる (放射性物質が含まれる屋外の空気になるべく触れない)
→ しばらく屋内で過ごす必要が生じる (十分に拡散するまでの時間(例えば24時間、もしくは数日?)。その間は換気も避ける)
→ 屋外での経済活動が大幅に制限され、物流などのインフラが停滞
です。
もしこの事態を心配される場合の具体的対処としては、
24時間~数日程度自宅から外出しなくても大丈夫な程度の食料・飲料を確保しておくのが妥当な行動と思われます。
(※過剰な買いだめは、より甚大な被害を受けている東北地方の被災地への物資提供に影響を与える懸念があるので避けるべき)
この事態に達すると思われるケースは、原発の(建屋よりずっと頑丈な)格納容器と圧力容器の両方が破壊される場合です。
なお、これを超える最悪の事態として、炉心溶融によって核燃料が床などに集積し、既に停止している核反応が再開し暴走するケースも考えられますが(チェルノブイリに相当)、政府発表を見る限り現在のところこれを想定する事態ではないように見えます。
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(以上)